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オリジナルの茶杓を作ってみよう。
茶道具を作るということで、茶杓ほど魅力的で手軽にできるものはない。
利休の頃は茶会があると青竹を切って、自身で作っていたという。
今、都会ともなると竹が手に入らず、茶杓づくりもままならない。
また作り方もわからないと言うことで断念する人も多い。
そこで、このコーナーではその茶杓作りを一から指導していきたいと思う。
■茶杓作り隊 〜茶杓づくりのための準備 忘路庵 樂風■もの作りをするときは何でもそうだが、準備が必要である。
茶杓つくりについても例外ではない。
このコーナーでは荒枉げ(まげ)をするところからはじめたいと考えている。
思うように枉げられなければ、気にいった茶杓が作れないからだ。
ただ、すでに枉げてある竹もあるのでそれを利用することもできる。
するがやでも扱っているので、それを利用してもいいかもしれない。●必要な道具
定規
ポール(水を入れ、曲げの時に使うものなので口が広く深いものがよい)
胴付鋸(目の細かいピラニア鋸など)
曲げるための道具
切り出しナイフ●どんな竹を選ぶのか
茶杓は村田珠光からはじまり、利休の草形を極みとして、多くは竹材で作られているが、なかには象牙や樹木を素材としたものもある。
使われる竹としては苫竹(マダケ)、雲紋竹、鰍竹(シポチク)、は竹などが適材で、さらに煤竹、ごま竹、実竹(じっちく・じったけ)などが用いられる。詳細は後述するとして、いずれを使うかは作者の意図するところや入手材料によるだろう。
竹材の入手方法としては、近くに竹薮があれば所有者に断って伐採することもできるが、町中であれば入手しにくいので、竹材店やホームセンターなどで求めるのが手っ取り早い。珍しい竹が入手できれば作者としてこのうえもない喜びである。
通常、茶杓でよく見られる白っぽいものは、白竹といって竹の油を抜き、数ヶ月間天日に晒したものである。晒竹(さらしだけ)ともいう。なお、荒曲げしたものは店で購入することも可能である。曲げは無理と思うのであれば、こうした成形された竹を購入するのもいいだろう。(...つづく)
■茶杓作り隊 〜削るときのサイズ 忘路庵 樂風■
適当な竹選びが終わったら、寸法の割付にはいる。1本の長い竹を切るわけだが、竹の景色──樋の具合、削げ、模様など──を見定めて切ることになる。
茶杓の寸法は大・中・小に大別される。ここではオーソドックスな中、つまり18.5センチ程度の茶杓をつくることにしようと思う。
節下(おっとり)は約10センチとするので、切断するときはそれよりやや長めに竹をとる必要がある。露(茶を掬う最先端)から節までが8.5センチ。ただし、櫂先は枉(ま)げるので寸法はそれより長くしなくてはならない。また、道具や手で枉げやすいように余分にとる必要もある。全体で22〜25センチ程度に竹を切ればよいだろう。
さて、竹に印をつけたら竹を切断するわけだが、長い竹を丸のまま適宜に切っておいてもいいし、前述の竹の景色をよく見ながらあらかじめ割っておいてもよい。これは個々人のやりやすさにおまかせする。
いずれにしても竹を割る場合、鉈を使う。鉈は両刃を用いる。片刃は均等に割れてくれないからである。
茶杓の幅は櫂先のもっとも広いところで1.05〜1.07センチである。そのため準備段階では1.3〜1.5センチ程度に割っておくといいだろう。
小割にした竹は、さらに節裏などを落と、幅などを整形しておく。
(・・・つづく)
■茶杓作り隊 〜下削りをする 忘路庵 樂風■前回の段階で、幅が1.3〜1.5センチ、長さが節下11センチ、節上げが全体長から節下
を差し引いた長さの竹べらができあがる。茶杓になる前のもっともはじめの形だ。こ
れを下削りするわけである。竹へらの裏面はU字形になっている。これは、竹が筒状
だからである。U字のままだと枉げづらく、きれいに枉がらないので、櫂先の裏部分
と枉げ軸あたりをナイフで削って平らにする必要がある。
枉げやすく、のちに削りやすくするために下削りは重要な作業なので、心して臨んで
ほしい。
この作業の有無で枉げが成功するかどうかが問われるといっても過言ではない。注意:櫂先の裏はきれいな丸みをつけるため、下削りの段階で薄くしすぎると、
本削りの際に削る部分がなくなるので注意が必要である。(・・・つづく)
■茶杓作り隊 〜水を浸けて、煮る 忘路庵 樂風■
乾燥してる竹は、そのままでは曲がらない。そのために水に浸け、十分に水分を含ませ、柔らかくする必要がある。
適当な器を用意し、水を張る。削った竹を3〜5日、底に沈むまで数日間浸けておく。
器は1.5リットルのペットボトルが場所をとらず重宝である。汚れても捨てることができる。これで竹は水をたっぷり吸収し、多少柔らかくなっている。この段階で曲げる人もいるが、煮沸しさらに柔らかくすると、曲げるときに好結果が得られる。
煮沸時間も竹によってまちまちだが、1時間30分〜2時間くらいでよいと思う。短時間で煮沸するには圧力釜を私用することをお勧めする。圧力鍋は内部がたんにお湯で煮るより高温になるため、より柔らかく煮ることができる。時間的には20〜30分くらいで十分であるそれでも竹が硬い場合は、つづけて煮る。煤竹やごま竹の場合は、45分以上は煮る必要がある。理由は枯れて硬くなっているからだ。
参考として電子レンジで曲げることもできる。竹に十分に水分を含ませ、曲げたい部分にラップをかける。それを電子レンジに入れてチンする。1分弱でいいだろう。あまりやりすぎると焦げることがある。ただ、レンジの中が竹臭くなるのが困る。家人に叱られないようにしよう。 つづく
■茶杓作り隊 〜固定する 忘路庵 樂風■
■固定する
さて、枉げた竹はまだ湿り気が残っているので、櫂先がもとに戻らないように固定し、乾燥させる必要がある。
方法としては紐で櫂先を固定し、戻らないようにすることもある。これは各自工夫するといいだろう。
曲げの角度は鋭角にするか、鈍角にするかの調整は、この段階で行う。これで櫂先の角度が決まる。
さて、茶杓は横から見ると中節を頂点としてなだらかな山形になっているものが多い。利休形などはかなり節が高く、しかも蟻腰・雉股に削ってある。あらかじめ節の高い竹を使用するほうがより自然だろうが、そうした竹は容易に手に入らないのが実状である。で、ないのなら作ってみようというのが世の常である。
これはやはり湿気のあるうちに型枠に固定し、その形にしてしまうのだ。型枠はたとえば四角の棒状のモノに枕をかい、そこの節の部分をあてて紐などで固定してしまうといいだろう。
もちろん、まっすぐな形が好きなら蟻腰にせずにそのまま乾燥させればいい。
型枠に固定したままの荒曲げの竹は、風通しのよいところで十分に乾燥させる。しだいに竹の表面が白くなってくるのでわかる。この状態になればいよいよ削ることのできる状態となるのである。●枉げための道具
手で枉げることのできるよう、余裕のある長さにあらかじめ切っておけばそれに越したことはない。が、景色の具合や竹の長さによってそうはいかないときがある。そうなると専用の道具の出番である。ペンチやヤットコを使うのもいいが、金属だと硬く櫂先に傷のつくおそれがある。木などの材質で、自分の使いやすい道具を作るといいだろう。これもアイデアのだしどころである。
■茶杓作り隊 〜茶杓を削る 忘路庵 樂風■
1 必要な道具
切り出しナイフ
胴付鋸(目の細かいピラニア鋸など)
ヤスリ(中目・細目)
定規
万力
ノギス
削り台2 作りたい茶杓のかたちを描く
茶杓作りの準備が終わり、いよいよ削る段階に入るわけだが、きれいに削るためには茶杓の姿を前述した竹片に描かなくてはならない。その前に予めある程度の長さに竹片を切断しておこう。
■櫂先の長さを決める。
今回は全長18.5センチの標準形の茶杓を削る。
櫂先の長さは、標準形ではほぼ2センチとなる。まれに1.9〜2.2センチのものもある。それは全体の 姿をみてその寸法を決めるので、今回は標準形の(中)ということで、櫂先は2センチとする。曲軸から露にむかって2センチ強のところに印をつける。強というのは、櫂先を丸形に削るため若干の余裕をもたせるためだ。■節から切り止めまでの長さを決める。
つぎに節から切り止めまでを10センチとして、そこに印をつける。印をつけ終わったら動かないように万力で固定し、鋸で切り落とす。このときくれぐれも裏から切らないように注意しよう。表皮がめくれてしまうことがあるからだ。■全体の形を描く。
つぎに全体の形を鉛筆で描いていく。まず茶杓の中心線をだす。これに中心として下記の寸法を記していく。
切り止め部分の幅 5.5〜6ミリ
節部分の幅 6〜6.5ミリ
曲軸の幅 9.5〜10ミリ
櫂先の中央の幅 1.05〜1.07センチ
印をつけたら定規でこれらの点を結ぶ。もちろん櫂先も美しい丸形を描いておく。線は茶杓の形をなしているはずである。寸法をつけるとき、茶杓の中心線をみつけることを忘れてはならない。中心線を決めておかないと、曲がった茶杓ができてしまうのだ。
以上、標準形の茶杓の寸法を割り付けたが、めざすところの茶杓により変化する のはもちろんである。作者の美意識で決めればよいと思う。ここではあくまでも 初心者のための作りやすい寸法を提示しておいた。茶杓についてのご質問は、こちらへどうぞ!
rakufoo@surugaya.com
櫂先から切り止めへ削り下げる全体の姿を鉛筆で描いたなら、線をなぞりながら櫂先から切り止めに向かって削 り下げていく。このとき注意しなくてはならないのは、細いほうから太いほうへ の削らないことである。なぜなら竹は繊維が直線に通っているので、広い部分を削り落とすことになってしまうからだ。ここが初心者の失敗点としてもっとも 多いので注意する必要がある。基本として櫂先から切り止め方向へ向けて削るこ とを守ってもらいたい。
ただし、櫂先の中央から露先に向けては、この範囲ではない。丸形をつくるために中央から露先へは細くなるからである。裏を削る
側面を削り、ある程度茶杓の形ができたら、今度は裏の削りである。この形も代表的には利休形と石州形のふたつがある。切り止めの断面をみるとわ かるが、利休形は舟形で、いっぽう石州形は直角切りといって長方形になっているはずである。ここでは利休形に削る。
■櫂先裏はゆったりと丸みをつける。
櫂先の裏は平らにしないで丸みがつくように削る。薄すぎず、厚すぎず、適度な厚みを残すようにする。■ 船底に削る。櫂先以外は船底に削っていく。
この時、中心から左右1〜1.5ミリは平らに削る。そうしないと棗に安定して載らないからである。■節裏を削る。
節裏の削りは順樋と逆樋では異なる。順樋の場合は、準備段階で節を山形に高く 形成したときは、利休の茶杓にみられるような蟻腰、雉股が削ることができる。
ただし逆樋では、直腰しかできない。というのは、逆樋の中節の場合、生育して いるときそこには枝があったわけで、身のその部分は薄くなっている。よってそれを蟻腰に削るとさらに薄くなり、折れやすくなるのである。■露先は美しく仕上げる。
上記まででほぼ茶杓全体の姿が見えてきたところで櫂先を仕上げる。茶杓づくりにはいくつか重要な箇所があるが、露先もそのひとつである。したがって慎重に 仕上げていきたい。露先には代表的な形として5パターンがある。いわゆる丸形、剣先形、一文字 形、兜巾形、蓮華形である。作者の好みもあり、また茶杓全体とのバランスもあるので、どれがいいとはいえないが、トータルにみて最もよいものを選べばよいと思う。■ヤスリで仕上げる。
これで完成まであと一歩にせまった。次はヤスリをかけてより美しいラインをだ したい。節から曲軸、櫂先、櫂先中央、露に向かって美しい線がでるように調整する。とくに曲軸の脇は、左右のバランスを見ながら丹念にヤスリをかけたい。おっとり部分も凹凸がないか微妙に調整する。櫂先も棗に載せたときにまっすぐ 天に向かっているか、畳の上ではどうかなど、曲がっていれば修正する。蟻腰、 雉股がある場合は、やはり美しい丸みがでるようにヤスリをかけていこう。
■茶杓作り隊 〜茶杓を磨く 忘路庵 樂風■
ヤスリがけが終わったら、切り出しナイフの裏、あるいは太めのカッターナイフで、裏を丁寧に削ぎ落としていく。指の腹でこすってみて、凹凸が感じられなく なればよいだろう。つぎにサンドペーパーで丹念に磨く。番手は紙ヤスリ#120〜150、水ペーパーヤ スリ#800〜1200、エメロンパーパーヤスリ#1800〜2000の順番にかけていく。とくに櫂先は丹念に。磨いては袱紗な どで拭いていみるといいだろう。ひっかかるところがあれば、さらにヤスリをかける。ただし、あまりピカピカに磨きすぎると、貧乏ひかりといって嫌われる。そのためにペーパーで磨き終わったあとで、やはり切り出しナイフの裏で2〜3度こすると、艶が抑えられる。
■茶杓作り隊 最終回 たましいを入れる 忘路庵 樂風■
すべて削り、磨き終わったても、これで終わりではない。
最後に切り止めを決め る作業が残っている。
いや、これは茶杓にたましいをいれる大切な作業である。
これによってはじめて茶杓が完成するのである。
切り止めの形もやはりいくつがある。
これも露先と同じように、茶杓全体の形と相対的であるので、もっともふさわしいものを選ぶ。
さて、切り込むときの角度であるが、鈍角に切り込むと間延びして見えるので、一気に鋭角に切り込み、鋭い雰囲気をだす。大切な作業なので心して行ってほしい。
また露先の裏にも二刀をいれる。これによって櫂先、さらには茶杓全体がしまってくる。
以上で「茶杓作りの作業」は終わりである。
いかがだろう、美しい姿を持った茶杓はできあがっただろうか。
これも数をこなしてはじめて納得のいく形ができあがると思う。
はじめて削ってうまく行かなかったといって嘆くことはない。
次に 削るときはいちだんと上達しているはずだから。
難しいところ、分からないところは、茶杓を削りながら、すこしづつ削り落としていくしかないように思える。
樂風さん、長い間の連載ありがとうございました。
今後も、すばらしい茶杓づくりがんばって下さいね。作品展の際は、ぜひご一
報お願いします。
ありがとうございました。