★「走」東井義雄★
スタートラインに立った子どもの姿というのは美しいものだな
いいものだな
つゆをふくんだ バラのつぼみのように
美しいものだな
ここには
勝ちほこったごう慢のかけらもない
敗残者の失意も卑屈もない
謙虚さと少しばかりの不安さと
露をふくんだようなみずみずしい希望と
未来にいどむもののたくましさが
ひとつになって
ひとりひとりのなかで燃えている
スタートラインに立った子どもの姿というのはいいな
美しいな
走っている子ども
最高に燃えている姿がこれだ
走力のちがいによって
一番あり 二番あり 三番があり・・・・六番もある
でも それは
燃え方の 序列ではない
一番も二番も三番の四番も五番も六番も
みんな
最高に 燃えている 火の玉だ
火は やっぱり 美しい
ああ あのビリッコの男の子は ニヤリ
決勝線十メートル前の ところで笑った
みんなの ビリッコを 見る目に
抵抗しているのだ
へっちゃらだぞと
抵抗しているのだ
でも あれは
ビリッコの 経験者以外には わからない
悲しみの 深さの表現なのだ
怠けている ふざけているなどと
思ってやっては ならないのだ
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