昔の職人、今の職人
伝統工芸の職人というとどんなイメージがあるでしょうか?
ねじりはちまきに、腹巻き。頑固そうで、何か声を掛けると「てやんでえべらぼうめ〜」と怒られる。近づきにくい印象があったりしますね。
実際、夏の暑いときには、ねじりはちまきも腹巻きもあります。その方が、仕事がしやすいし、自宅でやっているので、ネクタイなんかもちろん締めません。作務衣を着るのは、実演の時ぐらいです。
静岡の人間は穏やかなので、いきなり「べらぼうめ〜」とは言いませんが、やっぱり仕事には自信があるので、とんちんかんなことを言うと怒られます。めったにないですけどね。プライドは高いですよ。
30年ほど前の職人は、閉鎖的だったそうです。工房によその職人や業者などが来ると仕事の手を止めて「こつ」を隠していました。
現在では、逆に、仲間通しで勉強会を開いたり、新作展で競い合っています。
また一般の方も、デパートなどで実演を見たり、カルチャーセンターや匠宿などで体験することもできます。
職人の仕事
1.オリジナル作品の作製
私達「駿河竹千筋細工」の職人は、オリジナル作品を自分で企画、製造、販売までします。
産地問屋という、商品を企画して東京、大阪などの消費地に販売する問屋さんがいて、職人をたくさん抱え、自社企画商品を作らせる、産地もあります。
30年ほど前まで「駿河竹千筋細工」にもあったようですが、現在は強い産地問屋がないので、自分の作りたいものを作ります。
駿河竹千筋細工では、毎年冬に新作展を開きます。職人さんたちが、いろいろな作品を開発して競い合います。静岡県や静岡市などから表彰されるので励みになりますよ。
仕事は、主に自分の作品を作りますが、1軒で作りきれない注文が来たりすると、職人仲間で協力して作ることもあります。
製品は、通常、組合や問屋さんに納めますが、「手作り民芸工芸品 駿河屋」のようにインターネットで販売したり、全国各地のデパートで実演販売をしている工房もあります。
お客様の声が直接聞けて、参考になります。
●「駿河竹千筋細工」展示会
竹細工の他に、染色なども、オリジナルの作品を作りやすい仕事ですね。
2.問屋さんの仕事
最近では、オリジナル作品が多い、駿河竹千筋細工も以前は、問屋さんの仕事が多かったです。特に昔はどの家の和室にもあった電気笠、それを作っていました。
問屋さんから、まとまった注文が来ていて、狭い家中に電気笠が積まれていたことを覚えています。
ただ、まとまった注文はよいのですが、単価が安かったり、また継続して注文がないと、生活がこまってしまうところが、悪い点でしょうか。
当たり前のお話ですが、しっかり作らないと、返品されたり、そのあと、注文が来なくなったりします。
でも、販売やデザインについて考えなくて良いので、作るのに専念できるのが、良いところですね。
こうした、問屋さんがあると、職人はとても助かります。
3.分業
工芸には、一人で作るものと分業になっている物があります。
材料が竹だけの竹細工はほとんど一人で作りますが、お雛さんの道具のように、木工、塗り、蒔絵のように仕事の内容が、全然違うと分業になります。
分業ですと、毎日、部品ばかり作っている方もいます。伝統工芸といっても、仕事ですので、大切なことです。その中で、技術を高めたり、デザインを提案したりします。
私の友人に、くり物職人がいますが、毎日家具の部品ばかり作っているので、年に数回の展示会にオリジナルの作品を作って出すことをとても楽しみにしています。
作品を作る意欲のある方にとって、何十年も部品ばかり作っているのは、つまらないかもしれません。
最初から、部品作りに興味がもてないようでしたら、作家になる道を選ぶのが良いかもしれませんね。
竹細工の場合、塗りは、専門の職人さんにお願いしています。
以前、私も自分の好みの色を出したいため、塗りの勉強をしてみて、工房に道具を持ち込み、塗ってみました。
残念ながら、きれいに塗れませんでしたし、工房のスペースは減り、不十分な設備で臭いはこもりました。
でも、もっと大変なのは、塗っている時間がかかりすぎ、肝心な竹細工をする時間が減ってしまうことです。
「餅は餅屋」と言いますが、他の工程の仕事は、専門家に任せた方が良いようです。
このように助け合って、伝統工芸は、できています。
4.下請け
下請けというと、技術的にレベルが落ちるように感じますが、逆ですね。どんな仕事も、見本以上にこなせないといけません。
その割に、いただける費用は、少ない場合が多いです。
また、景気の良いころなら、まとまった仕事があって良いのでしょうが、不景気になると、一番に減らされるのが、下請けでしょう。
私達も、たまに他の方の仕事をしますが、とても難しく、また気も使います。下請けだけで食べている人は、とても尊敬します。
職人の生活
職人といっても、一般の自営業のみなさんと同じく、だいたい普通の生活をしています。
朝は、9時頃から始めて、夕方6時頃まで仕事をします。忙しいときは、夜11時頃まで仕事をすることがあります。
時給や月給をもらっているのではなく、仕事をした分自分の収入になるのでやりがいがありますよ。また、夏の暑いときは、朝4時頃から仕事をして、午後はしない職人もいます。
逆に、体をこわしたりけがをしたりで、仕事ができないと大変です。
また、自由そうに見えるので町内の役員などを任せられたりします。私の住む田町1丁目の町内会長は、漆塗りの職人や家具屋さんがやったりします。職人町ならではですが、仕事をしないと収入も減ってしまうので大変な面もあります。
職人らしいといえば、昼寝をします。だいたい20分くらいですが、午後の能率がアップします。お昼頃職人の家に行くと、たいてい寝ているか、たたき起こされて機嫌が悪かったりしますので(笑)、要注意です。なるべく、お昼の12時から2時頃までは、いかない方がいいようですよ。
女性の職人さん
小学校などでも「女性の職人さんはいますか?」と聞かれることが多いです。
「駿河竹千筋細工」では、女性の職人さんは、家族でやってる工房が多いのでたくさんいますが、独立してやっている方というと、うちにいた、若手の職人さんだけでしょう。
女性と言うことではなく、若い方が独立するというのは、なかなか難しいことですね。
さて、仕事は、竹割りや曲げなど力仕事もありますが、女性にできないことではありません。うちでも母がやったりもします。
また、穴あけやひご差しなど、細かい仕事は女性の方が丁寧で適しています。お客様は女性の方が多いので女性のセンスが大切ですね。
女性の経産大臣認定の伝統工芸士は、残念ながら「駿河竹千筋細工」では、いません。 家族でやっていてお父さんが伝統工芸士といううちは、
ありますが、女性の方はいませんね。
でも、始めてから12年で試験を受ける事ができるので、これから伝統工芸士になる方がでてくれるとうれしいですね。
●伝統の「駿河竹千筋細工」
18歳女性が修行
職人の楽しみ
○職人さんの楽しみは、何ですか?〜静岡市 高田さん(小学校5年生)より
ありがとうございます。学校で伝統工芸について勉強しているのでしょうか?うれしいことです。
さて、職人には、いろいろな楽しみがあります。
仕事のあとの一杯が楽しみだったり、家族と遊園地に遊びに行くのが好きな人もいます。
でも、自分が思った通りの作品ができて、それをお客さんに喜んで買っていただけると本当にうれしいですね。
賞をもらったり、誉められたりすることもうれしいのですが、 お金を払って買ってもらえると本当に認められた気持ちになり 一番うれしいですよ。
器用不器用
職人さんでも不器用な方もいます。 そういう私も器用な方じゃないですけど。
私の父、黒田英一は、修行中は兄弟弟子の中でも不器用な方だったようです。でも、その分努力して一人前になれたそうです。逆に器用な仲間は、すぐ飽きてしまって長続きしなかったといくことでした。
工芸は、細かい作業はもちろん多いのですが、仕事ですから、同じ作業が続くことが多いです。
駿河竹千筋細工の場合は、1日中竹を割ったり、また穴明けは、2日間もやっていると、肩が凝り、目もかすんできます。
毎日変わったことが出来て良い点もありますが、飽きずに続ける根気が大事ですね。
●伝統工芸士 黒田英一 私の竹細工
職人の道具〜別府竹細工との違い
有名な別府の竹細工は、籠やざるのように編んで組み立てます。
「駿河竹千筋細工」は、虫籠や鳥籠のように、穴を開けてそこにひごをさして組み立てます。
別府などの竹細工は、主に鉈(なた)と小刀があれば作れます。「ひご」と呼ばれる竹を細く、薄くした材料を作るのに道具を使います。厚みをそろえるために「せん台」(右写真)という道具を使うこともあります。「ひご」ができればあとは、手で編みます。平らに編んで籠のように立体にするときにこてを熱くして曲げることもあるそうです。
「駿河竹千筋細工」は、ひごづくりは、鉈と小刀、せん台、穴通しがあればいいのですが、縁の部分は、幅厚みを通すのに現在では機械を使っています。また、その縁を曲げるのに胴乱という筒状の鉄のかたまりを熱して曲げます。ひごは、こてで曲げます。このひごを差す穴は、ボール盤を使います。このように、道具の種類が別府などの竹細工に比べてかなり多いです。その分、精巧な竹細工ができあがります。
●「駿河竹千筋細工」ができるまで
●別府竹細工
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